繊細でシャイな友人「ゴリラ」
繊細でシャイな友人「ゴリラ」
野島 高彦
Waseda Weekly 2001年1月18日号掲載 [web]

繊細でシャイな友人「ゴリラ」
[書評] 「ココ,お話 しよう」(F. パターソン & E. リンデン 著,都守 淳夫 訳)どうぶつ社

小学校に通っていたころ,ゴリラというニックネームのクラスメートがいた.彼は別にタフな肉体の持ち主だったわけではない.ただ単に面長の顔をしているという理由からそのようなニックネームを付けられてしまったのである.痩せており,どちらかというと神経質な彼は,「ゴリラのくせに貧弱だ」などとからかわれていた.

ゴリラというと,“大きな体で人間に襲いかかってくる凶暴な動物.しかしサルやチンパンジーと比べると,おつむの方はちょっと足りない”というイメージを持たれがちだが,それは大きな誤解のようだ.この本に登場するメスのゴリラ“ココ”は動物学者の女性と共同生活を送り,意志の疎通をはかりながら毎日を送っている.言葉を交わすことはできないが,道具を使って人間とコミュニケーションすることができる.複雑な文法を使いこなすことはできないが,手話を用いて単語を規則的に並べ,意志をあらわすことができる.人間と同じように,嬉しいとか,悲しいとか,恥ずかしいといった感情を持ち,それを手話で示すこともできる.実は,ゴリラにつきまとう暴力的なイメージは,昔の本に探検家がゴリラと格闘したと書いたことから始まる誤解だという.本当はよほどのことがない限り人間に襲いかかってくることなどない,どちらかというとシャイな優しい生き物なのだ.

さて,元クラスメートのゴリラくんだが,背が高く痩せた彼を,今では誰もゴリラと呼ばなくなった.しかし友人に対して思いやりがあり,繊細な神経を持つ優しい彼は,ある面,今でもゴリラである.


○ここで登場した元クラスメートの「ゴリラ」くんは,音楽やデザインの分野で活躍中.彼のサイトでは作品を公開中.


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